【3】副鼻腔の手術
手術を要する副鼻腔の病気
A)好酸球性副鼻腔炎(重症例では難病申請)
B)慢性副鼻腔炎(3か月以上続く副鼻腔炎)
C)歯性上顎洞炎(歯根の炎症が原因)
D)副鼻腔真菌症(カビが原因)
E)副鼻腔良性腫瘍(乳頭腫、血瘤腫など)
F)上顎洞癌
A)好酸球性副鼻腔炎(こうさんきゅうせい ふくびくうえん)
従来型の慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、細菌感染が慢性化した状態です。一方、好酸球性副鼻腔炎は、体内に好酸球が多いという体質が原因です。好酸球性副鼻腔炎は、感染が原因ではないために、従来型の副鼻腔炎に対する治療では改善しません。全身性の疾患で、副鼻腔炎だけでなく、同じ呼吸器官である気管支にも炎症が出現し、喘息を合併しやすいです。副鼻腔の中でも、まずは目と目の間にある篩骨洞(しこつどう)に炎症が出現します。ここは嗅覚に関係するエリアに近いため、早期から嗅覚障害が出現します。
副鼻腔という空間は、小さな空間が集まってできています。それぞれの空間はペットボトルのように、出口が細くなっています。粘膜が腫れて細い出口が詰まると、奥の空間には炎症がこもります。
好酸球性副鼻腔炎の炎症が起こる主な場所である篩骨洞(目と目の間)には小さな空間が沢山あります。その壁面で炎症が起きるために、炎症が起きている全体の面積としては広くなります。炎症の物質が血中に回り、喘息発作を起こす引き金にもなります。
診断:CTで副鼻腔のうち、篩骨洞に主な病変がある。鼻内視鏡検査で鼻茸、病変の確認。両側に病変がある。採血で好酸球が多い。
(喘息の合併、ロキソニンアレルギー、嗅覚障害がある)
治療:モンテルカストの内服、点鼻薬、自己での鼻洗浄。ステロイドの内服が有効。手術(長期間、頻繁なステイロド内服しなければならない場合は手術)。
手術適応
①ステロイドを1年間に2回以上内服しなければコントロールできない場合
②好酸球性副鼻腔炎に合併する喘息をコントロールするため。
※嗅覚障害は、50%の方で改善しますが、50%の方で無効な印象があります。
(無効例でも、術後に下記の生物製剤を使用すれば、多くの嗅覚障害は改善します。ただし、鼻茸の再発などが無く、嗅覚障害だけの場合には、難病の申請ができない場合があります。)
内視鏡下鼻・副鼻腔手術
好酸球性副鼻腔炎は副鼻腔のそれぞれの壁面の粘膜で炎症が起こります。手術ではそれぞれの小さな空間の隔壁を開放して大きな一つの空間にします。
これにより、①炎症の場となる粘膜の面積が圧倒的に減る、②副鼻腔の分泌物を鼻洗浄で洗い流せる、という効果があります。
術後(再発)
多くの場合は、薬や鼻洗浄を併用しながらコントロールできます。喘息を引き起こす物質が体内に回る量が激減するために、喘息発作も起きにくくなります。手術で、炎症を起こす部位の面積を減らせますが、そもそもの体内に好酸球が多いというの体質は変わりません。そのため、一部で再発する例もあります。手術で隔壁を除去することで、粘膜の面積は激減しますが、副鼻腔と脳の境界、副鼻腔と眼窩の境界、といった一番外側の隔壁は除去できません。そこでも炎症を起こす程の重症例では、再発します(多くの例では術後コントロールできています)。再発しても、数年に1回のステロイド内服でコントロールができる場合が多いです。
術後再発する重症例には、生物学的製剤の注射があります。効果は良いのですが、2週間に1回自己注射が必要です。この注射を打ち続けます。本来、注射薬1本が3割負担でも数万円と高額ですが、重症の方は「指定難病」となり、医療費助成制度を利用できます。
合併症・リスク
鼻の穴から内視鏡と器械をいれて、内視鏡画面を見ながら手術します。副鼻腔の隔壁を手前から順番に除去し、開放していきます。副鼻腔と脳の境界、副鼻腔と眼窩の境界、といった一番外側の隔壁は除去できません。これらを破壊すると副損傷が起こります。
①頭蓋底損傷:髄液漏、髄膜炎
②眼窩壁損傷:複視、失明
③篩骨洞動脈損傷:失明
④視神経管損傷:失明
①ー④は極めて稀ですが、重篤な合併症の報告があります。これまでに院長の執刀で①ー④に対して術後に追加処置が必要となった事例はありません。①ー④の後遺症を来した例もありません。むしろ、交通事故やケンカなどによる外傷性の眼窩壁損傷による複視、失明に対して内視鏡手術で修復術を行ってきました。また、ナビゲーションシステム等の手術器機を備えており、安全な手術を心掛けています。
⑤鼻涙管損傷:流涙
(術後に鼻内にスポンジが入っている間は涙が出ます。抜去後はおさまります。これまでに院長の執刀で⑤の後遺症を来した例 はありません。)
⑥術後出血:予防のため鼻内にスポンジを詰めています。退院日に当院で抜去します。
B)慢性副鼻腔炎(まんせい ふくびくうえん)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は、3か月以上つづく副鼻腔炎です。多くは細菌感染が原因です。症状は、膿性鼻汁、鼻茸による鼻づまり、後鼻漏(膿性鼻汁がのどに降りてくる)、頭重感があります。
診断:副鼻腔CT、鼻内視鏡検査で副鼻腔炎を起こしている部位、程度、原因を診断します。
治療:まずは、3か月間内服治療、ご自身での鼻洗浄を行います。多くは、これで治ります。内服薬終了後に再度、CT、鼻内視鏡検査で治療効果を確認します。
手術適応
内服治療が無効の場合は、手術にて完治を目指します。
多くの場合(前述の好酸球性副鼻腔炎を除く)、術後、2-3か月で完治します。
内視鏡下鼻・副鼻腔手術
副鼻腔という空間は、小さな空間が集まってできています。それぞれの空間はペットボトルのように、出口が細くなっています。粘膜が腫れて細い出口が詰まると、奥の空間には炎症がこもります。また、鼻・副鼻腔の粘膜には副鼻腔内の粘液を、この出口から排出し、最終的には鼻の奥からのどへ排出する作用があります。副鼻腔炎で粘膜が炎症を起こすと、この作用が低下し、更に炎症がこもります。
手術では、この出口を大きく広げ、膿が排出しやすいようにさせます。また、換気をつけることで粘膜を正常化させて、副鼻腔内の貯留物を排出させる機能を復活させます。通常、手術の3か月後には治癒を認めれます。CTと鼻内視鏡検査で、確認します。
合併症・リスク
前述の好酸球性副鼻腔炎と同じ
C)歯性上顎洞炎(しせい じょうがくどうえん)
歯根の炎症で副鼻腔炎が起こります。
診断:CTで歯根部に嚢胞があり、その嚢胞周囲の骨が一部で壊れて、上顎洞と交通している。鼻内視鏡検査で、患側の鼻の炎症の確認。
治療:まず、歯科に受診していただき、歯根部の治療(抜歯が必要な場合も多い)。原因の歯根の治療後に、慢性副鼻腔炎に準じて内服薬の治療。内服薬終了後に再度、CT、鼻内視鏡検査で治療効果を確認します。内服治療が無効の場合は、手術にて完治を目指します。
手術:内視鏡下鼻・副鼻腔手術を行います。術後、2-3か月で完治します。
合併症・リスク
前述の好酸球性副鼻腔炎と同じ
D)副鼻腔真菌症(ふくびくう しんきんしょう)
副鼻腔の中に真菌(カビ)が生えて、炎症が起こります。
診断:CTで上顎洞に真菌の塊が描出されることがあります。本当に真菌があるのかは、手術で確認しないとわからないことが多いです。
治療:真菌が原因の場合は、薬では治りません。根治は、手術で真菌の塊を取り除かなければなりません。
手術:内視鏡下鼻・副鼻腔手術を行います。術後、2-3か月で完治します。
合併症・リスク
前述の好酸球性副鼻腔炎と同じ
E)副鼻腔良性腫瘍(ふくびくう りょうせい しゅよう)
副鼻腔良性腫瘍(乳頭腫、血瘤腫など)が疑われる場合は、川崎医大もしくは倉敷中央病院へご紹介させていただきます。
F)上顎洞癌(じょうがくどう がん)
上顎洞癌が疑われる場合は、川崎医大もしくは倉敷中央病院へご紹介させていただきます。
監修:岡山県倉敷市 ふくしまクリニック 院長 福島 久毅
川崎医科大学医学部卒業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。川崎医科大学耳鼻咽喉科にて准教授を務め、これまでに鼻科手術2,000件以上、耳科手術500件以上の執刀実績を有する。現在も倉敷平成病院での鼻科手術の執刀を行っている。